今回はケルンで行われているアートメッセ 、ART-Cologneについて書こうと思います。
ケルンの他にもドイツではベルリン、フランクフルト等の大きな街で行われているドイツのアートメッセですがこのArt Cologneは1976年に始まって以来ドイツで一番、 最重要なアートメッセの座を守り続けているメッセで、 毎年7万人以上もの来場、約260のギャラリーの出店が数えられます。 ちなみに今年は22カ国から250のギャラリーが出品。『今年のマーケットは前に比べてとても、とても強くなったね。』と確信をもって言うのはドルトムントのギャラリスト。 今回売れたモノで一番高価だったのはAsgar Jorn というデンマークのアバンギャルド画家の絵で81万ユーロ(約1億1千万円!!)次いでフォンタナの40万ユーロ(5千6百万円)等々。。。 今回の来場者数は6万3千人と少々少なめですが海外からの客が増えた』とはArt Cologne の新ディレクター、Gerard A. Goodrowの弁。 確かに今回のメッセにはNYのMOMA から買い付けが来ていたり、ドイツからは経済労働大臣が視察に来たりしています。 経済とアートがきちんと結びついているのを感じます。
そんなわけでベルリンのアートメッセに比べ、“売り”用の展示が多いケルンのメッセ。その中で今回目に止まったのはチューリッヒから来たギャラリー、Lehmann Leskiw + Schedlerでした。角にあるスペースを壁を使わずに広い空間で見せ、その広く白い空間にポツリポツリと手のひら大の絵(James Sheehan)が。お客さんは虫眼鏡をもらってじっくり眺めることができます。ちなみにお値段は900~4000ユーロの間。手頃な価格ですが、こんなんでもうけられるのでしょうか??
しかしまあ、小さい作品なら、運送費用もかからないし、メッセへの出品料がいくらかかるのかわかりませんが、ギャラリストのホテル代、交通費を加算してとんとんくらいでしょうか。
はげ頭のギャラリストさんはずーっと渋い顔をしていました。(もしかしたら地顔かもしれませんが)売れたかどうかはともかく、それなりに注目を受けていた展示でした。


上写真はGabriella Gerosa という人のビデオ作品。ぱっと見はクラッシックな絵画調なのですが、メイドさんがコーヒーカップを眉根に皺を寄せた奥様に手渡しする、という動作が額縁の中でじわじわとなされています。ちなみに、これは売れていました。
この他には、大きなスクリーンにやはり古典にありそうな食卓の様子がずーっと写っていて、一瞬その上にシャンデリアが落ちて来て粉々になるというビデオも展示されていました。このガッシャーンという音に引き寄せられてこのスタンドに入ってくるお客さんも多く、ここは常に人で一杯でした。
これを展示していたHettlageというドイツGruenwaldのギャラリーはこういったビデオ作品プラス、ビデオカットの写真を引き延ばした物を売っていて、そこそこの売れ行きの様でした。 ビデオが売れにくいというのを知っていて工夫したという感じの展示で良かったです。
そして右写真は映像作品をまとめたブースにあったインタラクティブなビデオ。これも額に入っていますね。ビデオ作品を売るコツは額に収めることなのでしょうか(笑)でも額に入っていたらとりあえず買ってどこかに置く、ということを想定しやすいですよね。プロジェクターを使わなければならないものは部屋を暗くしなければならないなどの問題点もあるし、美術館ならともかく、普通のコレクターが買うには難点も多そうです。だから逆に言えば、メッセと同時期にミュージアムでビデオ作品の上映会をするというのは美術館からの買い付けに向けての展示として良いのかも知れません。
さて、今回目立ったのは絵画の出品の増加です。
もちろん、メッセではコレクターに売れるものが中心なのでインスタレーション作品などは皆無に近いのですが、一昨年見た時は例えば、ビデオ作品用に暗くした映画館スペース等があったり、 ビデオ作品出品への工夫がありました。今回はケルンのミュージアム・ルードヴィッヒと組んでアートフィルム・ビエンナーレと言う名前で、切り離された場所で展示されており、 映像作品に興味がある人は別の場所で、という感じでした。『ビデオ作品は買ってもずーっとテレビで流しておくわけにもいかないしね。 ビデオではかっこ悪いというので一昨年くらいからCDにしてジャケットをちょっと凝るという形も出たけれどやっぱりコレクターには売れない。』と、フランクフルトのギャラリスト。 そんな“売るのが難しい”ビデオ作品ですが、いくつかうまくプレゼンテーションをして売っている作品がありました。


蠅が画面に写し出されていて
画面を触ると、蠅が、その部分の足をする。
子どもにも人気。


そして今回個人的に気になったのが写真。モダンの写真市場はまだ30年くらいだそうで、 ロンドンやニューヨークのオークションには写真作品の出品は常に増え続けているのだそうですが、メッセ市場では昨年に比べて写真の出品量はガックリと減ったそうです。
売れない理由の一つは、プリントは常に焼き増しが可能でコレクター心をくすぐらないこと。値段の付け方が難しいこと。しかしそんな中で目立ったのが、写真なのだけれど絵画のような味わいを持った作品達。
左写真はそう言った作品の一つで、写真を淡くプレキシグラスの上にプリントしたものを重ね合わせてあります。写真なのだけれど、写真程には実写の強さがなく、そこに観客の心が入り込む隙間があります。
絵画もそうですが、写真は何かを記録するために発達したもので、それが作者の心を乗せ、みるものの心に入り込むようになるまでには様々な工夫段階が必要だと思うのです。 写真は特に記録としての意味合いが強く、それが逆に強みでもあるのですが、何かの事実を捕らえた写真を家に飾りたい人はあまりいないのではないかと私は思います。 何かがじわりと伝わってくる、その作品の中に自分が入り込みリンクできる、そんな作品が人の所有欲をそそるのではないかと思っています。 そういう意味で左写真の2枚は心象風景のようで色も美しく、売れているのが良く分かる作品でした。額装でないのも古い感じがしなくて良いですね。 今回見た写真作品の多くがプレキシグラスを表面に張った加工でした。

さて立体作品についてです。
今回のメッセではケルン・スカルプチャーというブースが特別に設定されており、大きな作品が大きめのブースを気持ち良い程に広々と使って展示されていました。 右写真はその一つ、Max Streicher の馬です。彼は常に軟らかくてしゃわしゃわした手触りのビニールを使って巨大な人間や馬を作っています。 この馬はまるで寝息をたてているかのように微妙に膨らんだり縮んだリをくり返しています。これはメッセ会場の中心の1階と2階の吹き抜けに設置され、注目を集めていました。 売れたか売れなかったかは分かりませんが、新聞等には格好のモチーフで、写真も多く撮られていました。 こんな巨大な作品を家に置こうと言う人は稀だと思うので、大きな国際的な展示等に呼ばれたりするのがメインでしょう。そういう意味では注目を受けるだけでも成功と言えるのではないでしょうか。
ケルン・スカルプチャーの他のスタンドでは彫刻は小作品がちらほらと置かれているだけでした。
唯一(多分)のインスタレーションが右下写真のもの。小さな瓶に写真の切り抜きのような物がぎっしりつめられたものが並べられています。 彼女の作品は以前ベルリンの現代美術館にも展示されていたことがありますが、はて、売れたのでしょうか??気になる所です。 何にしろインスタレーションの作家はドローイングを売るか、コレクターに売るのは諦めて美術館等に買ってもらえる作品をガーンと作るか、どっちかしか“売る”道は無さそうでした。

今回は、ざっとArt Cologneの雰囲気を絵画、写真、立体作品に分けてみてみました。次は若手アーティストの出品について書いてみようと思います。




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