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さて、共和国宮殿の中に入ると、そこはひんやりと湿った匂い。コンクリートがむき出しになり、上から下まで長く、錆び付いた鉄骨がそびえたち、
バーのライトアップに照らされ、恐ろしい程力強くみえます。そこから階段をのぼった所に広がるからっぽの空間に、サッカー場のように芝生を広げた場所で最初のダンスは始まりました。 芝生の上に現れた1人、そして何人かに増えたダンサーが、まるで、生物の細胞分裂の実験みたいに、ぶつかっては動き、増えたり、絡まったり、くるくると回転したり。走りよったり去ったり。 人が動く度、ホコリっぽく湿ったコンクリの匂いに、青臭い芝生の香りが立ちのぼり、不思議な感じがします。呼吸、音のような言葉。痙攣のような動き。 その動きの間中、振動だけが伝わるような音、だけの音が、始終鳴っていました。 その芝生の上での第一部が終わると、“建物の内部を回ります”とのアナウンスが。いつの間にか冷えきっていた体を暖めようとバーでミルクコーヒーを注文し、外へ出ると、もう陽はとっぷりと暮れていました。 |
30人程のグループになって建物の内部へ。 『工事中なので団体から離れないで下さいね』等と言われながらぞろぞろと移動していくと、目の前には、下の芝生の所では想像だにしていなかった、天井がどこまでも高く、ライトアップされた空間が広がっていました。 そして、そこで第一部とくらべ、人間的なコンタクト、手話のような動き、こちらに向かって話し掛けようとするかのような口。 訴えかける目・・。 こちらに向かってのばされる腕。 ホコリっぽい空間で、彼等がこちらに向かってかけ寄ってくる度にほこりがササァーっと音を立てます。 彼等の服装は、第一部とは異なって、モノトーンのドレス、シックなズボン姿になり、灰色のスペースに溶け込むよう。 そこからこちら側にむかって何かをなげかけようとしたまま、サササ・・とダンサーが出ていってしまい、つられて彼等の姿を追っていくと、そこには木の座席が放射状に開いたコンサートホールが現れました。そのスペースの回りは、床もなく、鉄の梁があり、下の階が見えかくれします。 |
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まるで工事現場のような空間をぼんやりと眺めていると、眼下にちらりちらちりと走り回るダンサーの影が。赤や、青、薄紫等の色の切れ端が目にはいってきます。モノトーンの服で狂おしい程に会話したそうだった雰囲気はもうなく、お互いにからみあい、よりそいあい、ぶつかりあい。 昔からある鉄骨と、工事のために組まれた細い鉄棒と、木と、セメント、そしてそれら全ての影が織り成す隙間のような空間に、彼等の動く影が重なり、渾然一体となり、全てが、観客を包むようです。階下におりると、そこでは静かに、真紅のドレスのダンサーが踊っていました。 ここでは、工事現場特有の、金属の香りがしました。 |
さらに下におりると、そこは第一部を行った芝生の場所へ。そこに最初と同じかっこうで現れた彼等は、今度はサッカーボールを追いかけ、お互いにおしゃべりしながら、声をかけあいながら、じゃれあって・・そしてフィニッシュ。 最後は、あら?という感もあったけれど、とても面白かった! 私は見ている間中、なぜか、このダンスとこの建物、共和国宮殿と旧東独の運命をリンクさせながら見ていました。最初建てられた頃は、ダンスポールあり、バーありの、ベルリン市民のお出かけスポット。楽しい場所ではあったのでしょうが、しかし市民は“国民の安全”という名の秘密警察によって、管理されていた。言葉を、発したくても発せない状況。あきらめ。自分達なりの、動き。そこから壁が倒れ、混乱があり、そして今や“オスタルギー”なんていって、何故かドイツ中が東独ブームだったり。そんなこと全てを経験しながら、でも、この建物はココに有る。言葉ひとつ、つぶやくでもないのだけれど、骨だけを残し、影を作る。 からっぽのような空間なのだけれど、そこには様々な物が渦巻いていて、その空間とも対話しながら、観客と三つ巴になる作品を作ってしまったサシャ・ヴァルツには感服。 ベルリンほど廃虚や、借り手の無い空間がほったらかされている街もなかなか無いと思うのですが、彼女には、シャウビューネだけでなく、こういう場所をどんどん使って作品を発表してほしい!そしてその作品をみたい、私にこの街をもっと感じさせて! |
![]() 昔の共和国宮殿。 華やかなデコレーション ダンスホールだろうか? そういう時代もあった。 |
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