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(c)X Film verleih 『Requiem』より。 母にもらったロザリオを拾おうとしたら、 発作がおこる。十字架に触れられなくなったと、 自分の中の悪魔におびえるMichaela |
『Requiem』は、ドイツで起こった、ある実話を元にした話である。
Anneliese Michel。1952年、生まれ。信心深い両親の元で育ち、癲癇とおもわれる症状に悩まされ、その症状を、悪魔つき、と判断した両親と牧師2名により、悪魔払いの儀式を行われたあげく、飢餓症状などで1976年、死亡した女の子。 Annelieseの死亡に関して、両親、牧師2名とも執行猶予はついたが有罪判決がなされ、注目の裁判となったのだそうである。関連書籍も出版されている。 TVでちらりと見たが、裁判の証拠品として、Annelieseのしゃべった『悪魔の声』なんかも提出されていたようだ。映画をみた後だから、その声からは、Annelieseの苦しみの方がリアルに伝わってくる気がした。 映画の主人公Michaelaの、その叫びを出すまでの追い詰められた気持ち、娘を愛し、純粋に救おうとする母の姿が、その声の後ろにみえたから。 |
実は、この実話について調べていた時、ちょうどアメリカでも、昨年『The Exorcism of Emily Rose』という題で映画化され、
ヒットしたらしい、ということが分かった。未見だが、裁判劇のほうにスポットが当てられているみたい。 見ていないのに失礼な言い方かもしれないが、こちらのほうの映画の概要や予告編を見ながら、なぜか違和感を感じてしまった。 それは、『Requiem』が、信仰やら科学でもなく、家族への愛と家族からの愛、しかしそこから抜け出したい気持ち、 うまくいかない『自分』、自分の中にある悪魔?からのあがきに悩んでいた、Michaela の姿にスポットを当てているからだ。 彼女自身が苦しみ、否定しながらも、自ら『エクソシストの儀式を受けた方が良いと思うの』と判断し、 親友に言うシーンがあるからだ。 『でも、それもあなたなのよ!自分自身を追い払うことはできないでしょ!』と親友は言うが・・ |
(c)X Film verleih 『Requiem』より。 大学のパーティで知り合った シュテファンとのデート。 彼には本当のことが言えない。 |
(c)X Film verleih 『Requiem』より。 2人の牧師による、 悪魔払いの儀式が行われる。 |
そして、実際のエクソシストの儀式も、彼女が死んだ後の事も、映画では触れず、
ぽん、と『彼女は何回かの儀式の後、衰弱して死にました』と文字がでるだけ。
そうか、この終わり方が、良いんだ、とあらためて思う。 主人公Michaelaを演じて、今年のベルリン映画祭で銀熊、女優賞を受賞したSandra Huellerの迫真の演技からは、 誰の罪なのか、本当に悪魔がついたかなんて、問題はあまり重要に思えない。 彼女は、まるで悪魔がついたかのように叫びをあげる彼女と、 大学の最初の一学期を楽しむ普通の女の子をどちらも一人のひとりとして、 しかし、家族が、悪魔がついた!とおびえずにはいられない恐ろしさも、演じきった。 その叫びは、映画だとわかっていても、耳を塞ぎたくなる、鳥肌がたつような叫び。 うがっているかもしれないが、この映画『Requiem』は、同じ題材をあつかったアメリカ映画へのドイツからの解答、 ハンス・クリスティアン・シュミットの解釈の提示のようにも思える。 10点満点で8点。 (2006年、ベルリン映画祭観賞記より。批評はその時の気分と私の個人的な好みによるものです。ご了承下さい。) |