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![]() 19世紀マイセン陶器が作られていた アルブレヒト城が遠くに見える、 プリンスのワイン畑。 |
このワインにまつわるお話は、昔々、あるところに、西ドイツで生まれた1人の王子様がいました・・・で始まる物語。
プリンス・ゲオルクのお父さんはもともとザクセン州の多くの領地を所有する貴族でした。しかし、戦後ドイツが東西に別れたときに東側になった領地を“国営化”され(取り上げられ)、自身も牢屋に入れられたり酷い目にあった挙げ句、なんとか親戚を頼って脱出したフランケン地方でゲオルクを授かりました。 プリンス・ゲオルクは、戦争が無ければお城に住まうこともできる身分だったとはいえ、実際は領地も城も無い王子様。しかしもともと生まれたときからそういう境遇だったため、特に不満も無く、ミュンヘンに出て、農園経済学者としてキャリアを積む日々を過ごしていました。 89年、まさかの壁崩壊、そして東西統一。 そういえば、マイセン地方にある自分の領地はどんな土地なのだろう?と王子様は目にしたことも無い、自分の血を育んだ土地を見に行く事にしたのでした。 さて、行ってみた土地は、東エルベ川沿いの肥沃で日当たりの良い土地。東独時代は精神障害のある人達の家に使われ、その後廃虚と化していたお城の回りには、なんとお父さんが植えたリースリング種のワイン葡萄畑が残っていたのでした。 王子様はワイン農家になることを決め、この土地を買い直し、ワイン造りに知恵をしぼることになりました。 |
最初はここの畑で作った葡萄を使い、フランケン地方の親戚宅で試作し、その後、本格的に工場を整備。王子様の丹念なワイン作りは見事実を結び、96年にはドイツ格付ワイン農家として認められ、90年代後半から様々なワイン批評で高得点を獲得。特に98年モノのアイスワイン(葡萄を凍らせて作る甘味の強いワイン)99年モノの赤、2002年モノの白は素晴らしい出来になりました。 そして、今、プリンスは昔は執事の家だった小さな(城に比べて)二階建ての家に奥さんと、生まれたばかりのプリンス二世とともに幸せに暮らしています。 プリンスの作るワインが手に入る販売所から、畑とお城のある所までは車で15分程。ドイツワインの産地としては最北東にあるというこの場所、夏の終わりには、もうちょっと肌寒く感じました。ワインができる、ギリギリの日照時間と寒さ。その寒さと光がワインの甘味を作ります。ただただ広がる広大な土地は、ほとんどがプリンスの持ち物です。湿った土と緑、ほんのりと太陽の匂いがする畑。そこで深呼吸すると、ワインの美味しさの元が口に広がる気がしました。 歴史に翻弄されたプリンスは、しっかりとこの地で足を踏み締め、その地の恵みを素晴らしいエキスにし、送りだしています。ちらりと会う事ができた彼の手は大きく、柔らかく、ちょっと土の匂いがしました。その手は、苦労をしらない貴族のスベスベの手ではなさそうでしたが、彼こそは、自分の地を守ってゆくと言う意味において本当の領主ではないのだろうか、と感じさせられました。王子様、末永く、幸せに、これからも美味しいお酒造りにせいを出して下さいね。 |
![]() 執事の家っていっても大きい、広い。 さすが王子様のお家! って思ってしまうのは庶民の感覚? |